
起業して経営者になった瞬間から、私たちは常にビジネスというリングの上に立ち続けることになります。最初は手探りで方法論を考えなければならず、迷う場面も多いものです。
ときには人のアドバイスに耳を傾けることも大切ですが、すべてを鵜呑みにしてしまうと、「自分は何をやりたかったのか」という本質を見失いがちです。
そんなときに、ぜひ聴いていただきたいのが「44戒」です。
「44戒」とは何か
「44戒」とは、日本のHipHopアーティスト Shing02 が2002年に発表した楽曲です。リリックは、アーティスト自身への戒めとして書かれていますが、同時にリスナーにとっても「生き方の指針」となりうる内容になっています。
迷ったとき、浮き足立ったとき、落ち込んだとき――。どんな行動をとればよいのか、そのヒントを示してくれる一曲です。それだけでも、起業家や経営者にとって一聴の価値があるトラックだと言えるでしょう。さらにこのリリックには、経営者が知っておくべきビジネスの基本が驚くほど凝縮されています。以下では、「44戒」に込められたビジネスの要点をいくつかご紹介します。
1. 人間を学べ 入口を知れ 中を見ろ 構造を学べ 出口を知れ 外を見ろ ― カスタマージャーニー
起業をすると、必ず「顧客」という存在が現れます。
顧客満足度は、サービスの品質を決めるうえで欠かせない指標です。
その中核となるのが、顧客がサービスを知り、料金を支払い、使い終えるまでの一連の流れであるカスタマージャーニーです。
「44戒」のこのフレーズは、まさにカスタマージャーニーの骨子を示していると捉えられます。
- 人間を学べ:顧客視点に立つ
- 入口を知れ:サービスへの流入経路を理解する
- 中を見ろ:サービスの内容と体験設計を見る
- 構造を学べ:サービス全体の構造を把握する
- 出口を知れ:代金の支払い・サービス終了のプロセスを理解する
- 外を見ろ:利用後の顧客の行動を見据える
続く2行では、データ解析やマーケティングの視点も示されています。この冒頭を聴いたとき、私自身も「Shing02 はマーケターなのではないか」と思いました。そうじゃなければこんな歌詞書けない。
2. 社会を学べ 位置を知れ 周りを見ろ― ポジショニングマップ
多くの事業において、自社のサービスには必ず競合が存在します。競合はどのようなプレイヤーなのか、自社は太刀打ちできるのか。競合の強み・弱み、自社の優位性を整理するために用いるのがポジショニングマップです。
このリリックは、次のように読み替えられます。
- 社会を学べ:市場や業界をリサーチすること
- 位置を知れ:自社サービスの需要や立ち位置を把握すること
- 周りを見ろ:競合との関係性をマップ化して整理すること
ポジショニングマップをつくることで、ブランディングの切り口が見えてきます。自社の優位点を前面に押し出したキャッチコピーを掲げ、業界の中でのポジションを明確にしていきましょう。
3. 失敗に学べ 過ちを知れ 馬鹿を見ろ ― PDCA
顧客の獲得から納品、報酬の受け取りまで、ビジネスのサイクルを何度も回していくと、「この一連のプロセスをどう高めていくか」が問われるようになります。
その際に有効なのが、PDCAサイクルです。
- PLAN(計画)
- DO(実行)
- CHECK(評価)
- ACT(改善)
この繰り返しによって、失敗を減らし、成功の精度を上げていきます。実行の結果として失敗したときは、その過ちをしっかり噛みしめる必要があります。「なぜ自分は失敗してしまったのか」と向き合うことこそが、次の計画と実行の質を高めてくれるのです。
PDCAは、事業運営における基本中の基本です。「44戒」に倣い、決しておろそかにしないようにしたいところです。
4. 問題を学べ 矛盾を知れ 盲点を見ろ ― デザイン思考
デザイナーの方法論でビジネスを捉える「デザイン思考」では、ユーザー視点に立った問題の再定義が重視されます。問題は常に明確とは限りません。
ユーザーが抱えている本当の課題と、世の中にある既存のソリューションの間に齟齬や矛盾が発生しているケースも多く存在します。そうした「問題が曖昧な状況」にこそ、デザイン思考の出番があります。
この方法論を取り入れることで、見落としていた本質的な課題が立ち上がってくる可能性があります。
「問題を学べ 矛盾を知れ 盲点を見ろ」というリリックは、
顧客の課題を注意深く、俯瞰的に捉えることで、思わぬ盲点が顕在化してくることを示していると考えられます。
5. 表現を学べ 方法を知れ 大衆を見ろ ― ブランディングとマーケティング
ざっくり言えば、
- 大衆に向けて情報を届け、興味関心を喚起していく行為が「マーケティング」
- その中でイメージを浸透させていく行為が「ブランディング」
です。どちらも事業に不可欠であり、切り離して考えることはできません。
ブランディングとマーケティングは、どちらも「表現の方法論」です。この二つが噛み合っていないと、高級な商材なのに、大声でがなり立てて売ってしまい、結果として高級感が伝わらないといった事態に陥ります。
逆に、両者がしっかりと一致しているとき、商材の説得力は最大化します。いずれにせよ、両軸ともターゲット分析が欠かせません。まさに「大衆を見ろ」という一言に集約されていると感じます。
おわりに―音楽を侮らない
いかがでしたでしょうか。
普段何気なく聴いている音楽の中に、これほど多くのビジネスの教訓が込められているとは、意外に思われたかもしれません。正直、私も書きながら改めて驚かされました。
要するに、「音楽を侮るな」ということだと思います。起業した人にとってビジネス書はもちろん重要ですが、こうした楽曲からのインプットも同じくらい大切ではないでしょうか。
ビジネスというリングの上で迷ったとき、ぜひ「44戒」を一度、じっくり聴いてみてください。

岡崎龍夫
Eclo編集長。デザイナー、エンジニア、コンサルタント、ライターなど様々な職域を持つがもともとは俳優。表方の舞台活動から裏方のアートマネジメントに移行し、都内で舞台のプロデュースを手がけてるうちに、デザイン、WEB開発、マーケティングといった職能を身につける。趣味はDJとアザラシ探訪。現在は合同会社elegirlを設立し、WEBの企画、開発、コンサルティングを中心に活動している。